玩具 トラブル とんでもないものを見つけてしまった。 ペタリと畳の上に座り込んで、開いた箱の中身に釘付けになりながら呆然とした。 流石にそれが何であるかわからないほどイルカも初でもないが、今まで一度も手に取ったことのない代物だ。 カカシのモノを模したのかと思うほどいかがわしい形状に、知らず喉が鳴った。 「どうして、こんなものが・・・」 そろりと手を伸ばそうとして、触れる一歩手前で慌てて引っ込める。 勿論カカシが使うわけもない。 だってこれはどう考えても攻める道具で、カカシには必要ないものだ。 ということは・・。 考えたくないことだが、いつかカカシがイルカに使おうと用意しているモノということなのだろうか。 「・・・・・」 見なかったことにしよう。 上蓋をとり、無言のまま蓋をして元の位置へと戻すべく持ち上げる。 カタン。僅かに聞こえた音に心臓が跳ねた。慌ててクローゼットの奥へといかがわしい玩具が入った箱を突っ込むと、イルカはドキドキと脈打つ胸を押さえつけて愛しい夫の待つ玄関先へと急いだ。 「おかえりなさい、カカシさん」 「ただーいま」 ぴょこんと飛びついたうら若き妻を抱えてのただいまのキス。擽ったそうに首を竦めたイルカが恥ずかしそうに笑う。 「飯にしますか? 風呂が先・・」 「それとも・・」 「え?」 「――俺? じゃないの?」 口布を下げた美丈夫がニヤリと唇を吊り上げた。 目を奪われるほどの笑顔が眩しくて、またドキドキと胸が高鳴る。 つくづく思うが本当に整った顔っていうのは心臓に悪い。 「なっ、なななにを・・・っ!」 「アハハ。真っ赤だよ、イルカ」 「あぁぁ当たり前じゃないですかっ」 「心なしか心拍数も高いような・・」 鋭いカカシの言葉に、憤死しそうになる。ただでさえとんでもないものを見つけてしまった後だ。カカシの秘密を暴いた後ろめたさも伴って、血圧は目下のところ急上昇中である。 「やだっ。降ろしてくださいっ」 見た目は華奢に見えるのに、カカシの力は意外と強い。 わたわたと動くイルカをがっしりと抱えたまま、ペタリと胸に耳をつけられる。 「ドキドキしてるね。何かあった?」 これ以上は無理だ。 カカシに他意はないとわかっていても胸の鼓動はイルカも自覚するほどで、追求されればクローゼットの中のアレの事を口にしてしまいそうになる。 忍びでありながら、イルカは隠し事がとても苦手なのだ。 「な、なにもありませんよっ! さっさと風呂に入ってきてくださいっ!!」 くすんだ銀髪をぐしゃぐしゃにかき回せば、ぼろぼろと粉塵が玄関に落ちる。 こんなに汚れて・・と。表情を曇らせた妻に苦笑して、大丈夫だよと掬い上げるようなキス。 玄関先で何をしているのかと思うだろうが、二人はまだ新婚なのだ。 旧知の後輩が見れば顔をしかめて砂を吐くような場面も、今は二人の世界である。 「イルカは?」 「俺は・・、飯の用意してから後で入ります」 「えー」 「そんな顔しても駄目ですよ」 途端に不満げに眉を顰めたカカシの鼻先を摘んだ。 結婚してからわかったことだが、カカシは甘えただ。営みをしない夜でもイルカを抱えたまま寝るし、何かとスキンシップも多い。 一緒に風呂なんて入った日には、逆上せるまで何をされるかわかったもんじゃない。 愚図るカカシを風呂へを追い立てて、イルカは冷めた食事を温めるべく台所へと向かった。 ***** 「手伝おうか?」 「わっ!」 気配を消して背後から抱きつくのはやめてほしい。 それもとんでもなく甘い声のおまけ付きときたら、泡にまみれた食器を思わずシンクにぶちまけるところだった。 「い、いえっ! 後はこれを洗い流すだけなんでっ」 慌ててそう答えるれば、ふーんと気のない返事。 しかし身体を弄る手は動きを止める気配がない。 「ちょっ、・・カカシさん」 「あー、帰ってきたなぁ」 スンっと耳元に鼻先を寄せられて匂いを嗅がれる。 そんなカカシの行動にゾクゾクしながらシンクに手を付いた。 「・・熱い?」 「え?」 「イルカの匂いがする」 「・・そんなの嗅がないで・・」 密着されると自然に身体が火照る。まだシャワーすら浴びていない事をわかっているくせに、態とそんなことをするカカシは意地悪だ。 今日も子供たちと一日駆けずり回ってきたのだ。こんなことならカカシが帰還する前に風呂に入っておくべきだったと後悔する。 だって、汗臭いなんて思われたくないじゃないか。 「・・やだ・・」 小さく呟けば、泡だらけの手ごと食器を奪い取られた。 背後から抱えられたまま流水に差し出した手を洗われて、ここはやっておくからと囁かれる。 つまりは、さっさと風呂に行けと促されてるというわけだ。 「すみません・・汗臭くて・・・」 泣きそうな声で呟けば、少し驚いたように眼を見開いてふわりと笑った。 「いい匂いだよ」 「・・・・・」 嘘だ。 汗の匂いなんて、臭いに決まってるじゃないか。 じわりと滲む黒目に、困ったなと苦笑されてまた悲しくなった。 「ん――・・本当にいい匂いなんだけど。このままここで押し倒して突っ込みたくなるくらい」 「・・え・・・?」 形の良い唇から紡がれたとんでもない言葉に、思考が固まって一気に耳まで真っ赤になった。 「なっ・・なな・・・!」 「だからはやく準備しておいで」 焦れたように囁かれ、白皙の美貌がイルカの前で破顔する。 他の人がこんな恥ずかしいセリフを言ったなら、何をバカなことをと笑い飛ばしてやれるのに、悲しいかな魔法にかけられたみたいに微笑むカカシの顔に見惚れてしまって仕方ない。 「・・・・・」 ぎくしゃくと、手足を同じ方向に動かしながら浴室へと向かった。 そんなぎこちない後ろ姿を、カカシが笑いを堪えて見つめていることなど知りもせずに。 ***** 「うっ・・あぁ・・・っ」 まだ濡れた髪も乾かせないままベッドの上に転がされ、覆いかぶさってきたカカシに抗う両手を頭上で縛り付けられた。 ローションをたっぷりとまぶされた指先が蕾にふれると、その刺激にビクリと身体が震える。 だけど潜り込んだ指先を拒むことなく含んだイルカに、カカシが僅かに口元を緩めたのを見咎める。 「・・やぁ・・・」 「や、じゃないでしょ。こんなに柔らかくして・・・自分で弄ってきたの?」 だって、カカシがそうしろと言ったんじゃないか、と。意地悪な物言いに、唇を噛んだ。 浴室で自ら解した蕾はふっくらとしていて、カカシの指が出入りするたびにもっと触れてと切なげにキスをしている。 「ん・・んんっ・・・」 くちゅくちゅと下半身から聞こえる淫らな音に耳を塞ぎたいのに、両手は拘束されたままで身を捩ることしかできない。 反論しようとするたびに、ぐるりとかき回すように侵入してきた指先が弱い部分を刺激するから、唇はただ嬌声を上げるばかりだ。 「もっと奥の方まで突っ込んで欲しい・・? それとも・・」 「アァッ・・!」 増やされた指が中でゆっくりと広げられる。 その隙間からローションが流れ込んでくるような感覚にゴクリと喉が鳴った。 「・・・いやらしい顔」 どちらのほうが、と。反論しようとして、カカシの赤らんだ目元に身体の内部が収縮する。 咥え込んだ指先に吸い付くはしたない肉壁が、もっと欲しいと強請るのだ。 それなのに、カカシはゆるゆると含ませた指先を出し入れするばかりで、決定的な刺激を与えられぬままにイルカはベッドの上で藻掻いた。 甘く苦しい愛撫だけが長く続けられる。 執拗に指と舌で弄られた胸の尖りは痛みすら訴えるほどに赤く腫れ上がって立ち上がり、唾液の糸を残している。 その場所に食いちぎられるかと思うほどにキツく歯で噛みつかれ、痺れるような疼痛に下腹が熱くなった。 「―――ア、アァ・・・ッ!!」 刺激にびしゃりと吹き出したものが腹を汚す。 腰の奥が何度も収縮し、咥え込んだカカシの指にうねるように絡みつく。 ビクビクと震え、腹の上に溜まった精液が溢れて流れていく様を食い入るように見つめたカカシが、そっとイルカのペニスに手を伸ばした。 「・・・・触らな・・・で・・っ」 敏感になった場所に触れられて悲鳴が漏れる。 けれどそんな願いなど聞いてくれるわけもなく、包み込んだ掌で残滓まで搾り取るべく上下させた。 とろり、と。糸を引いて溢れる粘液に声を上げた。 まだ緩やかに勃ち上がっているモノは、カカシの掌で擦られて再び力を取り戻していく。 「まだ足りないみたい・・溜まってた? イルカ」 「・・ヤ―――・・見ないで・・・ッ」 「任務続きだったからねぇ。自分で慰めたりしたんじゃないの?」 「んなことっ・・してな・・・」 カカシが何を勘ぐっているのかわからない。 だけど何かを確かめるように続くこの行為は、まるで拷問のようじゃないか。 「・・・も、やぁ―――」 「本当?」 「――・・カカシさん・・ッ!」 「ここに」 「ンゥ・・ッ!!」 グリッと埋め込まれた指先がイルカの最も感じる部分に触れた。 その場所を何度も刺激されるだけで、腰が甘く溶けて力が入らなくなる。 自然に盛れる声が、あぁ、と艶めいた喘ぎに変わり、口の端から唾液が零れ落ちる。 「玩具でも咥えこんで一人で遊んでたんじゃない?」 「・・ちがっ!!」 違う。そんなことをしたこともないし、カカシ以外のモノを受け入れたこともない。 そう言おうとして。 ふと、あの箱のことを思い出した。 「これ、なーんだ」 ピクリと身じろぎしたイルカの目の前に、先程見つけたいかがわしい玩具が掲げられる。 「・・それ・・・」 確かにクローゼットの中にしまったハズだと、首を振るイルカの前でカカシが唇を釣り上げて笑う。 忍びというものはその職業柄、空間の変化に聡い。 ちょっとした配置、場の違和感、加えてカカシに至っては犬なみの嗅覚を誇るがゆえに他の忍びよりも敏感だ。 驚愕に慄くイルカの下肢を素早く割り開き、解された蕾に勢い良くローションを注ぎ込んだ。 「・・ヒッ・・―――!」 「こんなもので遊んで」 「・・ち、が・・・」 「ちゃーんと隠しておいたのにみつけるなんて、本当に悪い奥さんだよねぇ・・」 「ち・・違います・・・っ、それは・・ッ」 「ま、寂しい思いをさせたのはオレの方なんで文句は言えませんけれども。・・・ねぇイルカ、コレで遊んでいるトコロをオレにも見せてよ」 言いがかりも良いところだ。 呆然と目を見開くイルカに見せつけるように、性器を模した玩具にたっぷりとローションが塗りつけられた。 なんとかこの状況から逃れようとシーツを掻く足を掴まれ、無理矢理引きずり寄せられる。 「イ、ヤ――・・・!!」 ぐしょぐしょに濡らされた蕾に玩具が触れた瞬間、悲痛な叫び声とともに真っ黒な瞳から大粒の涙がぼろぼろと溢れた。 「・・・イルカ?」 「やだっ、ど・・して・・っや・・・」 「え・・ちょっとっ」 涙で顔を濡らし、子供みたいに声を上げて泣き出したイルカに慌てて玩具を放り投げた。 拘束した手を解き、拒絶する身体を抱きしめる。 「・・やっ・・離せ・・ッ」 「イルカ」 「おれ、そんなの・・使ってなんて・・・」 「ん」 必死で宥めながら濡れた頬に口付けた。 「嫌だ・・・ッ」 「・・ごめん・・意地悪しすぎたね」 口の中に広がる涙の味に、劣情を押さえきれなくなっているところで「・・アンタのしか、・・・やだっ・・・!」なんて股間を直撃するようなセリフを吐くものだから、思わず息を止めて逐情するのを食い止めた。 「・・・っとに、困った奥さんだよ」 余裕あるフリをしていても、カカシだとて久しぶりの妻の痴態に身体は昂りきっている。 涙でグシャグシャになったイルカの下肢に身体を割り込ませ、濡れた秘部めがけて自らの熱を一気に埋め込んだ。 「―――アァ・・・ッ!」 咥えこんでうねる粘膜に奥歯を噛みしめる。 吸い付いてねっとりと絡みつき、まだ足りないとばかりに奥へと誘い込まれて、頭がクラリとした。これが態とじゃないなんて、信じられないくらいだ。 あぁ、あぁと声を上げるイルカの頬を掴み、息ごと飲み込むかのような激しいキス。そのまま激しく腰を打ちふるい、絶頂まで駆け上がる。 「んぁ・・カカッ・・もうっ・・・も・・・」 焦らされ続けて漸く与えられた快楽に、翻弄されたイルカのうわ言のような声。 きゅうっと締め付けられる肉壁が、カカシが激しく出入りするたびにニチニチと淫らな音をたてる。 「すご・・っ」 「・・ヒッ・・ぃん・・・あ、ぁん・・ちがぁ・・・」 「なにが違うの。・・食いついて離してくれないのはイルカの方でしょっ・・・」 皮膚と皮膚がぶつかる音が部屋中に響き、互いの荒い呼吸を耳元で聞く。 体の奥を突き上げられるたびに揺れるイルカのペニスは、トロトロと透明な粘液を垂らして互いの腹を汚していく。 「カカ・・シ、さぁん・・」 首筋に腕を回すイルカが甘い嬌声を上げながら名前を呼ぶ。 「もっと・・して・・・」 髪をかき回し、内耳を指で弄られながら強請られた言葉に、身体の奥のカカシが大きくなった。 「・・あっ!」 「―――・・・・・ッ!」 互いの舌を絡め、汗ばんだ身体を密着させて。 最奥まで突き上げた瞬間縋り付いたイルカに、カカシが歯を食いしばりながら呻いた。 ***** 疲れきった表情のまま眠りについた愛妻の頬に指先で触れた。 あの玩具をイルカが使っていないことぐらいわかってたのに、少し意地悪が過ぎたようだ。 そもそもアレはカカシが買ったものでもない。 『任務続きでお前も大変だな』 へとへとになった帰り道、思い出したようにそう言った同僚にまぁねと答えた。 『新婚だろ? 嫁さん寂しがってんじゃないのか?』 あからさまに誂うセリフだったけれど、その通りでもあったので視線だけで頷く。 結婚してから嫌がらせかと勘ぐるほどに高ランクの任務依頼ばかりを回されて辟易していたところだ。 よっぽど秘蔵っ子をかっさらわれたのが気に食わないらしいと、煙管をふかす老いた里長の顔を思い浮かべて溜息を付いた。 カカシを任務に送り出す時の、イルカの心配そうな表情を見るだけで切なくなる。 任務放棄してやろうかと思ったことは片手でも足りないぐらいだ。 『お前が留守の間に他の男を咥えこんでたりして』 『は?』 何を馬鹿な事をと思いつつ、最中に何度も式を送り込まれては熱の冷めない身体のまま引き裂かれた夜を思い出す。 『わっかんねーだろ。まだ若いんだし、やりたい盛りなんだからさ』 『・・・・・』 他意はないのかもしれない。 しかしそう言われれば不安になるのは自然なことだ。 だから、ぽいっと投げられた包を受け取って、ついまじまじとそれを見つめてしまった。 『やるよ。俺からのささやかな結婚祝い』 『なにこれ?』 『大人のオモチャ』 『はっ』 こんなもの必要ないと突き返そうとして、続けられた言葉に思いとどまった。 『浮気されるぐらいなら、これで遊んでもらったほうがマシってな』 とんでもないセリフを言い捨てて走り去った同僚の背中を見つめながら、カカシはなるほどねとその包を鞄にしまいこんだのだ。 まさかそれをイルカにみつけられるとは思ってもみなかったが。 涙が乾いた跡を指の腹で拭い、それをペロリと舐める。 少しだけしょっぱい味に苦笑して、寝息をたてるイルカを腕の中に抱きしめた。 「・・・・ん・・」 腕の中で身動ぎするイルカにおやすみと優しい声で囁いて、乱れた黒髪を指で梳く。 明日はきっと、むくれたイルカを宥めるのに大変だろう。 だけどそれもまた愛しいと、腕の中の温もりを感じたままゆっくりと瞳を閉じた。