戯れ③ 愚かだった。 後悔の渦にいながら、イルカは目に涙を浮かべる。 カカシの秘密。自分の知らないカカシ。 イルカにとっては何とも魅力的で、蜂が求める甘い蜜のような響きだった。 まさか、目の前の男が、わざわざ家に訪れてこんな事をしてくるなんて、思いも寄らなかった。 自分がカカシの妻だと知ってなお、何でこんな事が出来るのか。 そう思い男を払いのけたくとも、男の手は、不思議なくらいに自分の良いところをいとも簡単に触れてくる。 イルカは堪らず声を上げた。 気がつけば下衣に手が掛かり、イルカは慌てた。 「いやっ....だめ、」 こんな事、許しちゃいけない。足にも力を入れて抗う。 「しょうがないな...」 不意に呟き、 ズボンにかかっていたスケアの手が離れる。ホッとするのもつかの間。イルカの抵抗していたイルカの手首をひとまとめにして握ると、床に置かれていた自分のマフラーを手にした。 「なに...なにを、」 薄く微笑むスケアを動かない身体でただ、見つめながら、嫌な予感がした。 力を入れ抵抗を示したが、両手を掴まれてどうすることも出来ない。スケアは易々とそのマフラーでイルカの手を縛り上げた。 心臓が痛いくらいに跳ねている。動けない恐怖にイルカの身体がさらに硬くなった。 そんなイルカを嬉しそうに見下ろす。 「じゃ、続きさせてもらいますね」 今から自分を襲う事がさも楽しげと言う表情で、改めてズボンに手をかける。 「やだっ...離して...っ」 捩る身体を押さえつけられ、どかりと腹の上にスケアが座る。 「ああ、...すごく綺麗だ...」 怯える目で見つめるイルカを見下ろしながら、彷彿とした表情で呟いた。 ふるふると頭を降ると、優しく目を細める。 「...で、何でしたっけ?先輩のどんな話を聞きたいですか?」 くすくすと笑いながら上衣から再び手を差し入れる。既に硬くなった乳首を爪で弾いた。 「うんっ...っ、だ、め...っ」 ひくんと身体を震わせイルカは小さく声を上げた。それに構うことなく上衣をぐいと捲り上げられる。 露わになったそこに、舌を這わせ、からかうように乳首を舐め、吸いつき、口に含んだままぬるぬると転がした。 「...んっ、...ふっ....っ」 濡れた音を自分の耳にもはっきりと聞こえる。身体の奥が熱く、下半身に熱が集まっていくのが分かる。 こんな事、しちゃ駄目なのに。気持ちいいなんて、感じてるなんて。自分の身体の浅ましさに唇を噛みながら、ふわふわと動く茶色の髪を見つめる。 これが、カカシさんだったらーー。 目を瞑り、愛おしいカカシの顔を思い浮かべたいのに。今のこの酷い様から罪悪感しか浮かばない。ぎゅっと瞑る目に力を入れた。 片方の手は指で摘み、しごき上げて潰す。赤くなった先が硬く敏感になり、攻められる度に身体がびくびくと跳ねた。もどかしく足を動かすと、スケアは口を離す。 「気持ちいいですか?」 イルカは火照った顔のまま、息を殺しながら薄く目を開ける。少しだけ息が荒くなったスケアがじっと自分を見つめていた。 ふいと顔を背ける。 「お願いです....やめてください...」 この男はやめないと分かっていたが、出てくる言葉はそれしかなかった。涙目でスケアを見上げる表情は子犬のような子供のようなあどけない表情にも見える。 「羨ましいな...先輩が...」 愛おしそうに見つめて、ぽつりと呟き、スケアは下着ごとイルカのズボンを脱がした。途端に外気にさらされ、イルカは息を詰める。 迷うことなくスケアの指が再奥へ伸ばされ、表面の薄い皮膚を撫でるように擦った。イルカは反射的に力を入れる。 「お願いっ、そこだけは...っ」 そう口にした時、指がずぶ、と突き入れられた。抗っても、指を根本まで簡単に咥える。 「ひぁっ...ぁあっ...」 中をかき回すように動かしながら、その指は2本に増やされ、丁寧に解されていく。イルカは必死に唇を噛んだ。刺激の度に体がのけぞる。 「ああ、...すごい...もうこんなに濡らして...」 うっとりと漏らされ、イルカは耳をふさぎたくなる。括られた手はどんなに動かしても解くことは出来ない。 もう無理、挿れます その言葉にハッとする。 「やっ...やだっ、やっ」 イルカは首を振ることしか出来なかった。 スケアは性急にベルトを外す。括られた腕の間から自分の頭を通すとイルカの足を開き、そのまま服も脱がずにイルカの内部に自身を埋めた。 「あっ...ああ....っ」 喘ぐ声を出すイルカの唇を遮るように口づけを落とす。 口づけされたままゆっくり根本まで押し入れると、口を離し熱っぽい息を吐き出す。 イルカの太股をつかみ引き寄せ、スケアは激しく腰を突き入れた。 湿った音が、下半身のから全身に回る快楽が。もうぐちゃぐちゃだった。喘ぎ声をこぼしながら。必死にこの状況から逃れたくて、堅く閉じた目から涙もこぼれ落ちる。 ふとこめかみに暖かいものが振れた。かかる息にそれがスケアの唇とわかる。揺すり上げられながら、それでもイルカは頑なに目を閉じ続けた。 今度はふわと髪に手が触れる。 その撫でる手が、ふたたびこめかみに落とされる唇が、あまりにも優しくて、イルカは閉じていた目を薄く開けた。 そこに目にしたスケアが優しく目を細め微笑み、それがカカシじゃないってわかっているのに。カカシの微笑む顔を重なり、開いた唇が震えた。 でも、見下ろし腰を振っている男は、別人で。イルカは悲しそうに眉根を寄せた。 その表情にスケアは首を小さく傾げる。 「イルカさん」 熱っぽく名前を呼ばれる。 「お願い...この手を解いてください...」 縛られて無理矢理されているという状況があまりにも辛い。出した声も震えていた。 「...大丈夫ですよ...カカシ先輩には内緒にしておきますから」 自分とは見当違いな事を言われ、イルカは頭を横に振る。 ぐい、と内部のいいところを突かれ、イルカは奥歯に力を入れた。 そこから太股を持ち上げられ、繋がった部分から湿った音が漏れる。 もし、今カカシさんが帰ってきたら。こんなふうに縛られて貫かれているところを見られたら。 そう考えただけで心臓が縮み痛みを増す。 ごめんなさい。カカシさん。ごめんなさい。 するすると涙が溢れてこめかみを伝う。 それをスケアが身を屈めて掬い舐め、深く突き上げられ、大きな声が漏れた。堪えきれない。感極まった声に、イルカは塞ぎたくて縛られた腕でスケアを引き寄せ、首もとに顔を埋めた。スケアはそこから腰の動きを早める。荒い息を吐いているのがイルカの耳にも聞こえる。 「んっ、あぁっ、あ、あぁ....っ」 自分とスケアの腹の間でイルカは白濁を散らした。ぎゅう、と中を同時に締め付ける。 スケアも息を詰め、眉根を寄せ、少し遅れてイルカの中に自らの熱を解き放った。 はあ、はあ、と途切れ途切れの荒い息が部屋に漂う。気怠くて乱れた呼吸を耳にしながら、脱力したスケアの体重を感じていた。 ガチャ、と脱衣所の扉が開く音にイルカの体が跳ねた。 ひたひたと歩く音が聞こえ、自分の近くで止まる。ふう、と息を吐き出した音が聞こえた。 「イルカさん、まだ泣いてるの?」 それにまたくるまった丸いシーツが揺れた。 「ねえ、」 シーツの上から触られて、イルカもシーツの上から腕で振り払った。 「帰ってください」 布越しだからか、くぐもった声だった。 「もうやることはやったんでしょう?だったらさっさと帰ってください」 押し殺した声が震えているようにも聞こえる。 二度と顔は見せないで。 ねえ、と言おうとしたカカシに、イルカの声に開いた口を一回閉じる。 お互い達した後、イルカの手をそこで解放した。途端思い切り体を突き飛ばされ、ベットに潜り込んでしまった。まん丸になったイルカはそこから岩のように動かず話さず。 仕方なしに、カカシはそのままシャワーを浴びに風呂場へ向かった。 二人で結婚した時に買ったセミダブルのベット。腰をかけると、重みでギシリと音を立てた。 さて、どうしたものか。 カカシはタオルを首に巻いたまま後頭部を掻いた。 顔をイルカの顔と思われる場所に近づける。 「イルカ」 いつも呼ぶように、カカシはイルカの名前を呼んだ。 「...その呼び方をしないでください。そう呼んでいいのは、カカシさんだけです」 ぴしゃりと言ったイルカ、勝手カカシの口の端が上がる。そこから立ち上がり片手で素早く印を組む。白い煙と共に、本来の姿にカカシは戻った。 もう一度ベットに腰を下ろし、シーツを優しく撫でた。イルカが体を堅くしたのが分かる。 「イルカ」 元に戻った自分の声で、再び優しく名前を呼ぶ。ぴくりと、わかりやすい位に体が反応した。 「イルカ」 もう一度、ゆっくりと呼ぶ。イルカがそこからじっと聞き耳を立てているのが分かった。混乱しているのが分かる。 「馬鹿だねあなたは。俺の事知りたいんだったらいくらでも話してあげるのに」 カカシは優しく囁いた。 そこから時間をかけ、ゆっくりと丸いシーツが動き、黒い髪が現れる。ぬっと顔を出したイルカの目と、カカシの視線が重なった。瞬間、黒いイルカの目が丸くなり、大きく見開かれる。が、ぎゅっと顔を顰めた。 「あなた、カカシさんに変化したんですか」 非難する声に、カカシは小さく笑った。首を振る。 「違う。俺だよ。カカシ。イルカなら分かるでしょ?」 まだ探るような眼差しのまま、イルカは必死でカカシのチャクラを調べている。ゆっくり、頭の先からつま先まで。じっと眺めて。信じられないと、泣きそうな顔になった。 「何で、どうなって、...だって、さっきのスケアさんは、」 「うん、俺」 認めたカカシに、困惑したままぽかんとイルカは口を開けた。 分かっているのに、理解できないという感じだ。 「でも、これで分かったでしょ?」 「....え?」 素直に聞き返すイルカに、カカシはにっこり微笑む。 「知らない男をやすやすと家に上げちゃいけません」 イルカは黒く輝く目を、ぱちくりさせた。 そこからイルカの怒りが湧きあがるのは時間の問題で。 でも、この後どうやって仲直りしたかは、二人だけの秘密。 <終>