その頃になると、あらかたのラッキースケベはやり尽くしていて、俺は新たなるシチュエーションを模索し始めていた。 火影服で俺が転ぶ→イルカが受け止める等のアイディアをもてあそんでるうちに、突然天啓のように閃いた。 (いや待てよ。これならアレができる…!) 俺は心の中でガッツポーズをした。 火影の衣装―――これはある意味ロングスカート的なデザインだ。 これなら不自然に女装する事なく、イルカが俺のスカート(マント)の中に頭を突っ込むシチュエーションができる。 本当ならイルカのスカートに頭を突っ込みたいんだけど、イルカが火影服を着て、尚且つその中に俺が頭を突っ込める自然な状況作りがまず無理だろう。 俺は火影服をラッキースケベの集大成とする事に決めた。 それからイルカと俺のスケジュールを綿密にチェックして、確実で自然なタイミングと状況を発生させるためには、更なる忍耐の日々が必要だった。 ようやく完璧な日がやってきて、俺はごく自然に護衛を引き離す一時を手に入れる。 執務室を出ると俺は気配を断って、階段の上でスタンバった。 (―――来た。) さほど待つこともなくイルカがこちらに向かってくる気配がする。 俺が頼んだ資料を両手に抱え、執務室に続く階段の方へ歩いてくる。 廊下を通りかかるイルカの歩くペースに合わせて風遁で風を起こし、窓から強い風が吹き込むのを演出した。 季節は春。全く不自然さはない。 「うわ!」 イルカの声が聞こえたところで、俺は階段を降り始める。 そのまま風を操り、イルカの持った書類を階段の方に吹き飛ばす。 イルカが階段下で書類を拾うためにかがむと、そこに俺が通りかかる。イルカはまだ俺に気付かない。 最後の二段くらいの位置で俺に向かって風を吹き上げさせ、マントの裾が大きくまくれ上がった。 ここで俺は気配を現して階段を降り続け、書類を拾ったイルカが顔を上げて…… 「おわっ!?」 マントの中でイルカのこもった声がする。 俺はほんの僅かな一瞬、目を閉じてこの甘美な瞬間を味わった。 それから「えっ!」と驚いてみせる。 すると、イルカがびっくりしたのか、服の中でもがいて立ち上がろうとした。 (…えっ?) 今度は本当に驚く。 マントの前方が大きく膨らみ、膝の辺りを前からぐいっと押された。予想外のイルカの動きに俺は、 イルカもろとも、後ろに尻餅をついてしまった。 階段のすぐ下で尻餅をついた俺は、下から三段目に座って両脇に手を突いていた。 大きく開いた足の間にはイルカが挟まっている。 俺がイルカのクッションになるように倒れたし、受け身は取ったから二人とも怪我はないと思う。イルカもとっさに俺の左腿に掴まったようだ。 ただ、反射的に頭の中で確認した身体の各部分の感触で、一つだけおかしな所がある気がする。 あのさ………… これ、イルカが俺の股間にもろに顔を埋めてない? 鼻らしき感触が俺のアレにぎゅっと押し付けられてない? じゃあ、その下のアレの方に軽く押し付けられてるのって、イルカの唇!? いやいやいや!もちろん忍服越しだけども!! 「すみません!大丈夫ですか?」 マントの中からもぞもぞと這い出てきたイルカが、俺を押し倒すような体勢で顔を覗き込んできた。 あ、なんかちょっとこれ…やらしい。 「あ、や…うん」 思わぬ状況にたまらず顔がじゅわぁっと火照ってくるが、なんとか平静を装って答えた。 「でも顔がちょっと赤いですよ。痛いの我慢してるんじゃないんですか?」 イルカが俺の頬に手を触れる。 いや待って!今の俺に触らないで!なんかもうムリだから色々と! 「や、へーき!うん、ホントに!」 「そうですか…」 しばらくイルカがじっと俺を見てるけど、何だか恥ずかしくて目が合わせられない。 すると、イルカが片手で口を覆って俯いた。 「どうしたのイルカ!顔かどっか打った?」 俺が慌てると、イルカは顔を上げて、うは~っと笑った。 「…いや、こういうハプニングって、想像以上に破壊力ありますね。カカシさんがハマったのも分かるわ」 (………え?) 「えっ、分かってたの!?」 「いつからかは分かりませんけど、何か狙ってるなってのは分かりましたよ。何となくですけど、針の先くらいの緊張感が伝わってくるので。その後いつもなら絶対襲いかかってくる状況なのに、あんな不自然に無関心な態度をやられ続けたら、逆に変だって疑いますよ。しばらく狙いは分からなかったけど」 そう……だったんだ。 あれだけ集中して自然に振る舞ってたのが、逆に不自然になっちゃってたのか…。 今までの努力はいったいなんだったんだろうと俺がガックリしてると、イルカが鼻の傷をぽりぽりと掻いて、ニシシと照れ笑いをした。 「そりゃあ、俺も男ですからね!やっぱり男のロマンだし、一回はやってみたいなと思って。だからさっきはつい利用させてもらっちゃいました」 それからすいと顔を寄せて。 「赤い顔で必死に平静を装うカカシさん…可愛かったですよ」 (う、    わぁ~~~~~ぁぁあ………っ) 今度こそ、顔から耳まで茹だったようにぶわっと熱くなる。 たまらなくなって俺はイルカの視線から逃れるように抱きしめた。 ……もう降参です。 昔も今も、イルカには敵わないです。はい。 【完】